さし藻草 卷之一 [ 29 / 29 ]

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來生を恐れ、菩提を求る者多し。
高官尊貴の人々、福貴高
位の出家の如きは、動もすれば
來生有る事を知らず、惡趣を
恐れざる人々多し。萬事心に
任する故に、福貴にめで、
威權に誇りて、無常を管せず、
      《二九丁オ》
地獄を恐れず、菩提を求るに
暇まなし。火宅の中に有て、推付
生死到來する事をも知り
玉わず、三塗六趣などの苦患は、
露塵顧み玉ふ事なし。寔に
惜むべし。故に拙偈一篇を賦す。
題して勸發菩提心の偈と云ふ。
      《二九丁ウ》