さし藻草 卷之一 [ 7 / 29 ]

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存じ暮らし侍る者お、萬一の義に而も
是有り候而は、御家中は申すに
及ばず、御領内萬民の悲歎は
如何すべきぞと被爲思召候哉。過去
の萬善萬行の功徳に依て、縱ひ
今世には梵漢和三國を所領
せさせ玉ひたり共、御壽命無之候而は、
      《七丁オ》
一箇の細民にも劣らせ玉ふ者には
有之間敷候哉。偶ゝゝうけ難き
人身をうくとこそ申し侍り。
六趣輪廻の巷には、人身ほど
大切成る事は無之覺へ侍り。
寔に天上の善果にも遙かに勝り
たる事共多き中にも、一國一城の
      《七丁ウ》


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