さし藻草 卷之一 [ 8 / 29 ]

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大守とも生まれ付かせ玉ふ事、千
生にも萬劫にも逢ひ難き御
身を持たせ玉ひながら、御覺悟惡敷、
御養生の御心掛も無之、日頃勤勵
玉ひたりし仁慈の御徳行を、思召儘に
積み得させ玉ふ事も果させ玉わで、
故との三塗の舊里へ闇々と立ち
      《八丁オ》
歸らせ玉わんは、如何斗か殘念至
極の事とは思召されず候哉。近か
頃何某の候[侯]御遠逝の由。是も
至極大切の仁君にて渡らせ玉ひ
けれ共、七旬に餘らせ玉ふ御老
身にておわしける由。是非なき御事に
侍り。殿下の如きは、未だ半百にも
      《八丁ウ》


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