さし藻草 卷之一 [ 12 / 29 ]

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傍らに神醫有り、何れの所の
人と云ふ事を知らず。氏性も
また無し。壽算三百七十歳、
能く人の病性を察し、死生を
見る。帝、遙かに使を發して、召して
診候を窺わしむ。老翁一見して
容ちを改らため、て云く、
      《一二丁オ》
大難ゝゝ。諸君の種々藥劑を
盛り揃へて、陛下に擎げ玉ふは、
譬へば此に蘭陵の美酒有
らんに、一口の破瓶を居へ置、盛
湛へて納め貯へんとするが如し。
久しからずして必らず涓滴もまた
無けん。今此破瓶、天下に滿つ。
      《一二丁ウ》


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