さし藻草 卷之一 [ 20 / 29 ]

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世に有りては、淨土にむまれん、
成佛をとげんと、持齋し持戒し、
長坐不臥し、難行し苦行し、秩父な
るは、坂東なるは、西國三十三所
なるはなど、種々精神を盡くし
玉ふと云へ共、隻手の聲を聞き
得、音聲を止め得、見性の眼を
      《二〇丁オ》
開らき得玉わざらん限ぎりは、
成佛は存じも寄らず。淨土の片
端しも亦見付け玉ふ事能わじ。
然共、前生にて積み置き玉ひ
たりける萬善萬行の功徳は、
少しも滅せず、高位高冠、福貴
自在の身と生まれ、福貴を
      《二〇丁ウ》


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