さし藻草 卷之一 [ 22 / 29 ]

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向きに謂ゆる六趣輪廻の内には、
人身程得難たく、大切成る事は
是無く覺へ侍り。寔に天上界の
善果にも遙かに勝れりと社
覺へ侍りとは、如何なる子細ぞや。
返すゝゝも心得難き事にこそ有る
めれ。如何となれば、大凡古今の智
      《二二丁オ》
者高僧、及び世間の限りも無き
後世者達まで、生天の福報を
とて皆盡く戀ひ求め玉ふ。去る
程に一子出家すれば、九族生天
説き置かせ玉ふに非らずや。人界
若し其れ遙かに天上に勝れる事
多くば、何の天上の善果を求に
      《二二丁ウ》


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