自筆本は未見である。白隠の当時、すでに歌謡や文芸で庶民が熟知していた「お夏清十郎」の物語が下敷きにされている。「お夏清十郎」の話は実話である。この事件はたちまち、俗謡「清十郎ぶし」となり、歌祭文で語られ、やがて浄瑠璃、小説、歌舞伎などの文芸の好材料となった。
「清十郎ぶし」の「向ひ通るは清十郎じやないか、笠がよく似た菅笠が」と「笠を着たのが清十郎であらば、お伊勢参りは皆清十郎」は、ここでも採用されているが、白隠下の室内でもこの俗謡が用いられたようである。