夜船閑話
禅師の仮名法語の代表作である。若き時に禅病におかされた白隠禅師が、京都北白川の山中に隠遁する白幽仙人の存在を人から教えられ、仙人を訪ね、その病を克服する法を授かる。禅師のかかった禅病は肺病でもあり、一種のノイローゼのようなものでもあったようだが、仙人はこれを癒すために「内観の法」と「軟酥の法」というふたつの瞑想法を授ける。
白隠禅師はこの法の実践によって、必死の病をのりこえることができた。そして、自らの体験を「ものがたり」にして、同病の者に示したのである。江戸期からもっともよく読まれて来た法語であるが、近代になっても、白隠著作の中でもっとも読まれて来たものであり、この内観の法によって健康を回復した例がいくつも報告されている。
白隠著作の中でも突出して有名になった著作ではあるが、内容は健康法に過ぎず白隠著作を代表するものとは思われない。『夜船閑話』のみは突出して繰り返し紹介され、また読まれて来たことが、かえって白隠の全体像の研究を阻害する要因にもなって来たと言えよう。