夜船閑話 巻之下
白隠仮名法語の中でもっとも知られている、内観法を説いた『夜船閑話』と同じタイトルであるが、内容はこれとは何らの連絡もない、まったく別のものである。
駿河小島藩主、松平昌信(1728~71)に与えられた法語である。小島藩は石高一万石、最低限の大名で、城郭ももたない小さな藩であった。そのため、参勤交代や諸役の負担は大きく、藩政はつねに逼迫していた。この小藩の藩主に対する仁政指南の書であるが、白隠の語りは、君主を補佐する者に向けられているようでもある。
酒宴をやめよ、側室を減らし、出費をおさえるべし、鷹狩りは民百姓の負担になるばかりか、殺生の破戒行為であるから、これをやめよ、追従をこととする佞臣を退け、賢臣を登用して、これに国政をゆだねよ、という内容である。
『辺鄙以知吾』 『さし藻草』などと同じく、大名に対してまつりごとの根本精神を説いたものである。